ビジネス界隈でよく耳にするけど曖昧で理解が難しい言葉の代表(と私が勝手に思っているの)が、Go-to-Market戦略です。
GTM戦略とは、その名の通り自社の製品やサービスを「市場に投入する」戦略なのですが、なぜわざわざこれが提唱されるのでしょうか。
この記事では、その他戦略との違いを理解しながら、社内で使えるGTM戦略が策定できるよう、その内容を深堀っていきます。
Go‐to‐Market戦略とは
Go-to-Market(GTM)戦略とは、製品やサービスを市場に効果的に投入し、成功させるための包括的な計画です。
「包括的な」というのがポイントで、
❌ …市場投入に関するすべての事柄を網羅して戦略を立てる
⭕ …市場投入に関わるすべての人が参照できる戦略を立てる
例えば「営業戦略」や「マーケティング戦略」のように、一つの部門の中で(一つの部門が中心となって)どんなアプローチで目標達成するか?ではなく、
製品開発から顧客獲得、付随するカスタマーサクセスなど、成功までの全体像を描くことが求められるアプローチです。
他の戦略との比較
上記の通り、GTM戦略は比較的抽象的で、取り扱う製品、そのステージ、会社の組織形態などによりアウトプットが異なるものです。つまり、厳密な定義が難しい。
理解を深めるために、他の戦略と比較を以下に述べます。
GTM戦略と営業戦略の違い
GTM戦略では、どの市場で、どのような価値を、どのように届けるか、といったような包括的が盛り込まれます。また、戦略を描く対象期間も1年以上と中長期的。
一方、営業戦略は具体的な販売活動のための戦略であり、「どのように顧客に販売するか」に焦点を当てます。
具体的には、フィールドセールス人員を2人配置し、30件ずつの商談を実施、1社契約につき100万円で…といった営業活動計画まで落とし込むことも。対象期間も、月次や四半期で考えることが多いです。
SaaS製品の営業戦略の例
– 四半期目標:新規契約30社
– 営業活動計画:
・重点ターゲット100社リストの作成
・業界展示会での商談50件獲得
・既存顧客からの紹介促進
・無料トライアル後のフォロー体制強化
また、営業戦略に関与するメンバーはあくまで営業部門のメンバーであり、自分たちができる・自分たちでできる範囲を対象にします。
GTM戦略とマーケティング戦略の違い
GTM戦略では、どの市場で、どのような価値を、どのように届けるか、といったような包括的が盛り込まれます。また、戦略を描く対象期間も1年以上と中長期的。(再掲)
一方、マーケティング戦略は製品(サービス)の認知・需要創造の戦略であり、「どのように顧客に購買してもらうか」に焦点を当てます。
SaaS製品のマーケティング戦略の例
– 認知向上施策:
・医療専門メディアでの広告展開
・業界カンファレンスでの講演
– リード獲得施策:
・ホワイトペーパーの作成・配布
・ウェビナーシリーズの実施
GTM戦略とグロース戦略の違い
GTM戦略では、どの市場で、どのような価値を、どのように届けるか、といったような包括的が盛り込まれます。また、戦略を描く対象期間も1年以上と中長期的。(再掲)
一方、グロース戦略は市場参入後の成長を加速させる戦略であり、「どのように顧客を収益の拡大化を実現するか」に焦点を当てます。
SaaS製品のグロース戦略の例
– ユーザー獲得の効率化:
・獲得チャネルの多様化
・紹介プログラムの導入
– 継続率の向上:
・機能利用の習慣化促進
・コミュニティ機能の強化
なお上記の通り、GTM戦略は市場”参入”を成功に導く戦略である一方で、グロース戦略は市場”参入後”の話をしているというフェーズの違いも大きな相違点です。
GTM戦略で記述すべき3要素
概ね、以下の3つの要素が含まれていることがGTM戦略内容の目安となります。
どの市場で
市場定義は、業界特性に応じて具体化する必要があります。例えばB2B製造業向けソリューションの場合:
産業機器メーカー市場
- 従業員規模:300-1000名
- 特徴:多品種少量生産
- 地域:地方都市の工業団地
- 課題:熟練工の技能伝承
このように、法人であればターゲット事業者の規模、業務特性、その他特性(例えば立地等)、主要課題を具体的に定義します。
また可能であれば、具体的に定義された市場規模が定量的に示されていることが望ましいです。
どのような価値を
製品・サービスの価値提案は、定義した市場の特性に合わせて具体化します。特に重要なものを列挙するならば、以下のような点でしょうか。
- 顧客の具体的な課題解決方法
- 競合製品との差別化ポイント
- 導入による定量的・定量的なメリット
これらが具体化できる程度には、市場ニーズの理解や競合理解のための十分なリサーチが行われている必要があります。
なおこれらの点は、Business model canvas や Lean Canvas でよく検討されるポイントなので、それらのツールを利用するのもおすすめです。
どのように届けるか
市場への展開方法は、フェーズ別に設計することが効果的です:
立ち上げフェーズ(0-6ヶ月)
- 早期採用顧客への集中
- フィールドセールス70%、マーケティング30%
- 成功事例の創出に注力
成長フェーズ(6-18ヶ月)
- 中規模顧客への展開
- フィールドセールス40%、インサイドセールス30%、マーケティング30%
- 営業プロセスの標準化
スケールフェーズ(18ヶ月〜)
- 多様な顧客層への展開
- フィールドセールス20%、インサイドセールス40%、マーケティング40%
- 効率的な顧客獲得の実現
GTM戦略の解像度
GTM戦略を策定する際、どこまで具体的に解像度高く示すべきか?疑問に思うことがよくあります。
必要な解像度は、以下の要因によって調整が必要になります。(ここでも時と場合による調整が必要です!)
- 製品・サービスの性質
- 市場の成熟度
- 自社のリソース など
ローリスク・既存市場参入の場合
比較的シンプルな定義で十分だと考えられます。なぜなら、各部門のメンバー自身の解像度が既に高いことが多いからです。
- 競合との差別化ポイント
- 最小限の成功指標(KPI)
- 主要部門の役割分担 など
ハイリスク・新規市場創造の場合
上記とは逆に、まだ見ぬリスクが高い、そもそもどんなものともわからないようなチャレンジングな取組ですと、当然ながら詳細な定義が必要となります。
- 市場教育の方法
- 初期採用者の獲得戦略
- リスク対応計画
- 段階的な市場展開計画 など
成功のためのチェックポイント
GTM戦略を作ってみて、本当にこの内容で製品(サービス)の市場投入を実行できるのか?
以下のチェックポイントでセルフレビューしてみるのはいかがでしょうか。
以下の質問に答えられる程度の具体性があるか?
- 各部門が自分たちの役割を明確に理解できるか
- 具体的な行動に落とし込めるか
- 成功/失敗の判断基準が明確か
- リソース配分の判断ができるか
以下のような柔軟性が確保できているか?
- 市場の反応に応じた軌道修正が可能か
- 想定外の状況への対応余地があるか
- 各部門の創意工夫の余地があるか
まとめ
おさらいになりますが、GTM戦略は、製品やサービスを市場に効果的に投入し、成功させるための包括的な計画です。
ただし、GTM戦略は、例えばPMBOK(プロジェクトマネジメントに関する知識を体系的にまとめた世界標準)のように、標準化されたものではないです。
個々の製品・サービスそのものだけでなく、その会社の組織やフェーズに合わせて、GTM戦略で定義する内容は柔軟に調整すべきであり、その点では肩の力を抜いて策定に取り組めるものではないかなと思います。
市場投入を成功させるために、まずは目の前のチームメンバーや他部門のメンバーと同じ目線で話ができるような、”使える”戦略を策定することをぜひ意識してみて下さい。


