プレゼンテーションなどで利用される一般的な「マトリックス図」について解説します。図そのものは非常にシンプルなので、活用の具体的場面と記入例(軸の設定&記入例)をセットでご紹介し、実際に使ってもらえるような解説を目指しています。
マトリックス図とは
縦横の表形式で、情報を整理するものです。(数学では”行列”を指します)この図を用いると、ある対象に対して複数の要素でその特徴を説明すること、が簡単にできるという効用があります。

例えば、「りんご」という対象について説明するとします。色は赤くて、食感はしゃきしゃきで、味は甘酸っぱいというように、複数の要素でその特徴を説明できます。これを「バナナ」や「みかん」についても説明が必要な場合は、すべて文章で書くよりも図で書いたほうが早いしわかりやすい。これがマトリックス図の効用です。
- りんごは色は赤で、食感はしゃきしゃきで、味は甘酸っぱい
- バナナは色は黄色で、食感は柔らかく、味は甘い
- みかんは色はオレンジで、食感はぷちぷちとしていて、味は酸っぱい

一方で、学校の時間割では(一般的には)縦軸に”時間目”、横軸に”曜日”が並び、内側には”教科”が記入されています。この場合はどちらかというと横軸の”曜日”に対して、その日に予定されている”教科”を示して(説明して)います。
つまり、縦軸と横軸のどちらに「説明したい対象」を並べるべきか?は場面によって変更可能であり、図を差し込むスペースや資料全体のバランスなどを考慮して選べるのであまり気にする必要はありません。重要なのは、図を利用する目的から逆算して、両軸にどんな項目と要素を並べて、どのような情報を示したいか?を注意深く考えることです。以下で利用目的とその具体例を紹介します。
※本記事では2×2のマトリックス図およびその応用(SWOT分析、アンゾフマトリックスなど)は取り扱わず、あくまで汎用的な図としての使い方を解説します。
目的 1:決定事項を示すため
社内外問わず情報伝達は難しいものですし、ましてや複数の対象に対して複数の情報を文章で伝えるのはややこしく覚えるのも困難です。1つ目の目的として、決定事項を示すためのマトリックス図の使い方について紹介します。迷ったら、忘れてしまったら何度も参照するような使われ方のものです。
活用場面 (必要書類の案内)
銀行で住宅ローンの申請受付を担当しており、お客様の状態によって必要な書類が異なることをわかりやすく説明したいと思っています。

上記の図では、申込者は自分のシチュエーションに対して必要な書類を縦軸で確認することができます。重要なのは想定されるシチュエーション(横軸)の網羅性であり、申込者の立場で「自分がどれに該当するか分からない」という状況が内容、網羅的に、被り無く項目が並べる必要があります。
また、ここではセルの中身を文字情報ではなく記号にしました。入力値は数値データ、記号、アイコンなど、状況に応じて自由に選択ください。
活用場面 (役割分担)
システム開発のプロジェクト管理を担当しているものの、メンバー間の役割分担が曖昧になっているので認識合わせしたいと思っています。

役割分担表も一般的なマトリックス図の利用用途です。この場合は網羅性を担保するテクニックとして、業務やプロジェクトのプロセスを軸にすることをおすすめします。
なお、プロジェクトにおいて役割や責任を明確化するための高度なツールとして、RACIチャートというものもあるので、ぜひこちらも参考にされてください。
目的 2:意思決定を促すため
2つ目に、意思決定を促すためのマトリックス図の使い方を紹介します。実はマトリックス図を活用する場面の70%以上はこの目的ではないかと感じています。社内での意思決定、また取引先に自社サービスを選んでもらう意思決定など、その図を参照する人の背中を押せるような使い方です。
活用場面 (サービス改善)
<活用場面>
ECサービスの改善担当として、社内メンバーに向けて具体的な改善事項を提案します。提案内容と顧客ニーズがどう適合しているか示したいと思っています。

この場合、例えば縦軸にニーズを、横軸に顧客セグメントを配置するのはどうでしょうか。EC利用において「配送スピード」を20代が”重要”、30代が”重要”、40代が”やや重要”と考えており、これは他のどのEC利用時のポイントと比較しても、もっともニーズが高い、ということを示そうという意図で作成した図です。(”重要”の基準は?など曖昧さが大きく残る点はあくまでイメージとしてご了承頂ければ助かります。)
もう少し補足しますと、おそらくこのアンケートで回答下さったユーザーは10代以下、50代以上もいらっしゃると思いますし、重視するポイントについても商品の質、カスタマーサポート対応の良さ、などの他項目もあったと考えるのが自然です。ただ、意思決定においては網羅的な情報を並べること=マトリックス項目がいたずらに増えることよりも、比較・意思決定しやすい形で情報を限定することも重要なテクニックです。
また、説得力を増すために情報を限定した背景・根拠を添えておくのもよいです。例えば「20代~40代で当社購買額の80%以上を占める」「アンケートで重視する項目ランキングの上位3つを表示」などの記載があると納得度が増します。
活用場面 (クライアント提案)
<活用場面>
マーケティングソリューションを提供している会社で営業を担当しており、クライアントが競合と比較して迷っているので、自社を選んでもらえるように説得したいと思っています。

当社および競合他社がどんな機能・サービスを提供しているのか?を説明する意図で項目を構成しました。また、入力値には記号を、かつ単純な「○」「☓」ではなく強弱を表現できるよう「◎」「△」も駆使しています。競合ですので機能・サービスは似通っているはずで、そうすると選ぶ側に立場では「どう違うのか?」がわからないと選びようがないからです。
ここでは比較軸に「価格」は入っていません。もしかすると”当社”が一番コストがかかるサービスかもしれませんが、仮にその場合はあえて不利になる項目を比較表に含めて網羅的に記載のは避けましょう。別ページで説明するというやり方もできます。こういった比較表は取引先社内で流通することが多いことを念頭に置くと、比較表においては”当社”が良さそうだという印象をつけられるとよりよいです。
また、これは図自体というよりリード文も含むプレゼンテクニックですが、特に何に着目してほしいのか?は意識して構成しましょう。上記例の「貴社の最注力点である広告配信に強みを持つ」「各種付帯サービスも漏れなく提供可能」という点がそれで、比較表でもその情報が読み取れる構成になっています。
まとめ
マトリックス図は、ある対象を複数の要素で説明することに優れたツールです。ごく一般的な図だからこそ自由度も高く、組織設計、新規事業の提案、戦略的意思決定、競合分析など、さまざまな場面で活用できます。縦軸と横軸をどの切り口で設定するか、またどの範囲と要素まで含めるべきか、を注意深く選択することでマトリックス図の訴求力は大きく高まります。意外と奥が深いマトリックス図ですので、ぜひ徹底的に活用してください。


